農業を始めて出会った無数の生き物たちの存在

5年前から都市部の仕事を離れ、千葉の片田舎の農業法人で働くようになった。
職場のスタッフは現在10人。職場の広さは東京ドーム1個分。職場へ行くのは自家用車で、密な状態になりようの無い環境で日々仕事をしている。

もともとイベント企画をしていたこともあり、人との出会いは日常的だったのだけれど、この職場にきてから、人に会うことが減った。それは、仕事で向き合う対象が人間というよりも、畑だったり野菜だったりするからなのだけど、それだけではなく距離的な問題で親しい友人と会う機会も減った(年に1人か2人くらい)。

人と全く会うことが無くなって、今まで見えていなかったものが見えるようになってきた。
それは、人以外の無数の生き物だった。植物や虫、動物、そして微生物(目には見えないけれど)等などが生きている世界があることを肌で感じた。

太陽が登ってすぐの朝、畑に出ると、空気はまだしんとしていて、冷たい。
冬場はマイナス1度から仕事が始まることもあり、毎年決まって足の中指と薬指はしもやけになる。
時間が経つにつれて気温が徐々に上がってくると、畑の生き物たちも活発に動き出すようになる。
どんな場所でも、足を止めて、じっと一点を見つめていると、今までなにも無かったはずの空間がむずむずと動き出して、そこに沢山の生き物がいる事がわかる。

まずは季節の野草。春夏秋冬で畑の緑は違った顔を見せてくれる。
春の訪れを知らせてくれるのは、瑠璃唐草、ホトケノザ、ハコベ、ナズナ、シロツメクサ等の柔らかく、小さい優しい野草。
そこから夏になるにつれて選手交代となり、メヒシバ、ハキダメギク、スベリヒユ等、どんどんタフな草が現れる。そして畑はアッという間に草に覆われて、草取り作業に追われる。
晩秋になるまで、このような夏の草が残り、そして冬になるとほとんどの草が霜で枯れる。

虫も季節を知らせてくれる。冬場の寒い時期はどんな生き物も生命活動を維持するのがやっとなので、あまり姿を見せないけれど、春になるにつれてチョウチョや蛾の幼虫が畑に現れる。そして春の野菜の葉をむしゃむしゃとかじり始める(耳をすますとパリパリと野菜を食べている音が聞こえる)。また、アブラムシもちらほら出始めて、そのアブラムシを食べにテントウムシが現れ始める。そのころからカマキリの卵から羽化したベビーカマキリが登場する。夏になると田んぼの周りはカエルの大合唱で、空気が揺れるくらいにゲコゲコと鳴きまくる(不思議とうるさいとは感じない)。また、カブトムシ、クワガタ、セミなんかも出始めて、トンボは秋まで飛び回っている。秋の夜はスズムシが心地よく鳴いている。スズムシの鳴き声が止まると冬は近い。

土の中なんかは面白くて、微生物の宝庫で、ミミズやコガネムシの幼虫、ダンゴムシやオオハサミムシのように直接的に目で見えるものもいるし、肉眼では見えないものもある。
肉眼では見えない生き物の総称を微生物というらしいが、彼らの存在を見たい時は土の匂いをかぐ。微生物が多い土は、鼻の奥から脳みそまでほんのりと山の土のにおいが駆け巡る。(山の土の匂いとは、放線菌という微生物の香りらしい)。生き物がいない土は匂いがしない。

こんなふうに、沢山の生き物の生命活動の移り変わりを、育てている野菜の成長と一緒に見ている。この場所には、人がほとんどいないのに全く寂しさが無い。孤独感も無い。それは、人が居ないかわりに、無数の生き物の住処が守られていて、彼らと共にいるという感覚があるからなのだと思う。

こんなに沢山の生き物の世界が、自分と同じ時間軸の中で存在しているということを実感した時、自分という存在のちっぽけさを思い知ったし、同時に人間関係であれこれ考えていたことがなんだかどうでも良くなって、不思議と自由な気持ちになれた。

幸か不幸か、人間は自然の中の循環の輪から外れてしまったけれど、ぼくは彼らと同じレベルの地球で生まれた生き物なんだということに気づいた。考えれば当たり前のことなんだけれど。

ぼくたちの周りに人間だけじゃなくて、色々な生き物がいる。人間のように言葉を使ってコミュニケーションできるわけでは無いけれど、彼らに関心を向けて、よくよく観察して、そして彼らの声を聴くよう意識してみる。もし彼らの変化をキャッチできたら、きっとぼくらの世界は一気に広がっていくし、彼らから学ぶことが沢山ある。人は、人間以外の世界に目を向けたら、もっともっと楽に、自由に生きていくことができるんだろうな、と思う。

彼らと日々、どんなふうに関わっているかについてはまた今度。

1 COMMENT

みな

都会で生活していると、日々の大切さに鈍感になって、相対する人間に対してだけ、どんどん敏感になって、とても疲弊する時があるんですが、その対極ですね。

どっちが優れているとかは無いとは思うのですが、日々を味わう素敵な生活ですね。

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